■【第四章】音や音楽についての私の考え(アトラクター逆変換波形生成装置について)

1 はじめに
筆者が本発明を行った後、日本国特許庁に2007年4月27日に出願した、特許公報(特開2008−275845 発明者:出嶌達也)を引用しながら、その内容と応用例にについて説明する。この特許はすでに特許庁で審査され特許査定となっています。

2 概要
この発明は、従来の楽器に用いられてきた、波形合成、周波数解析による周波数特性変換、あるいは数理モデル音源のような波形生成方法とは異なり、最初から音を聴く側(リスナー)の神経メカニズムを考慮しながら、波形生成を行おうとするものである。

 その内容については、一言で言うと、「ターケンス・プロットの逆変換を用いてアトラクタの特徴を生かした波形を作り出す」(以下アトラクター逆変換技術と称する)というものである。既にターケンス・プロットによって描かれたアトラクタは、様々な波形の解析に用いられているが、このアトラクタをn次相空間内で編集し、この編集されたアトラクタを逆変換することによって新たな波形を創りだそうというものである。
この発明に関する詳細は特許文献の主要部分を引用して以下にて記載する。

3 発明の詳細(特許文献より引用)
背景
従来から、音楽家が曲を作成する場合にまず考えねばならないことは、頭の中に描いているイメージを、曲ごとにどのようにしてリスナーに強く印象づけるか、ということである。この曲作成という作業はメロディーや和音を最適化する「作曲」という作業と、作曲されたメロディーや和音を演奏するための音色を最適化する「音色決定」という作業とに大別される。このうち「音色決定」作業は、音楽家が表現したいと思うイメージに合った音色を見つけ出してそのまま使用するのが一般的であり、選ばれた音色は、リスナーに対して自分の音楽を印象づけるために特に重要な役割をもつ。
【0003】
楽家が「音色決定」を行う場合、音の特徴の一つである「音の印象」、つまり「音の人の心に残るような特性」を抽出し、積極的にこの特徴を利用する場合が多い。しかしながらこの「音の印象」を抽出することは、一般的な手法として確立されたものでなく、経験と感性に頼る部分が多い。したがって、よほど熟練した音楽家でない限り、この作業を行うことは容易ではない。
【0004】
このために時間と労力をかけて見つけた「音の印象」は、音楽家にとって非常に魅力的かつ重要であって、これに代わる同じような音の印象をもった別の音色の音を見つけ出すことはたとえ熟練した音楽家であっても容易ではない。しかし同じ音色の音が安易に繰り返し多用されていて創造性に欠ける、という良くない印象を与えかねないし、作品の個性が失われて飽きられるという致命的な問題が生じてくる。
【0005】
もちろん、これを避けるためある程度「音の印象」について妥協して他の音色を使うことが考えられる。つまり、原音波形に対してその波形形状を何らかの条件に基づいて変更することもひとつの手法である。例えば、特許文献1では、編集の対象となる原波形のS/N比を上げるため正規化という処理を行いつつ、その処理の中で各サンプリングごとに、所定の振幅をこえると波形をクリップさせて音色の変化をつけるといった処理が行われている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−92462号公報
【特開2008-275845の発明の開示】
↑【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、単純に音波形の形状を変更する特許文献1に開示の手法では、「音の印象」を抽出・保持することが全く考慮されていないため、「音の印象」は簡単に失われてしまい、リスナーに対して結果的に強い印象を与えられる曲が提供できなくなってしまう。このように自分のイメージをリスナーに対して強く印象づけられる曲を数多く提供しようとしても、それに必要な「音の印象」の抽出という手法が確立されていないため、「音色決定」のために世の中に無数にある音の中から自分のイメージに合う音を発掘する、という膨大な労力と時間がかかる作業をさらに続けなければならなかった。
【0008】
しかし、近年になってターケンス・プロットとよばれる、脳で行われる情報の処理と類似していると見られる手法を用いることにより、ある音からアトラクタを生成すると、このアトラクタは「音の印象」を表わすものであることがわかってきた。その理由は、人間の脳のメカニズムを知ることで理解することが可能となってきている。
【0009】
まず人間の脳は、外部からうけた刺激を情報として取り込み、これが何であるかを認識(特徴を抽出)して記憶している。この認識は入力された情報のみで行うのではなく、過去にうけた刺激により記憶された情報を参考にして認識していると考えられる。たとえば、映画で見たあるシーンが過去の自分の経験と重なっていると、大きな感動を憶えることである。これは脳が映画のシーンを認識する際、過去に記憶された経験の記憶を参考にして認識し、同じ特徴を有する経験があればそれが強い刺激として認識されるため感動が大きくなっていると考えられる。また、過去にどこかで聞いた音を再び聞いた場合、それについて親しみを感じるということも同様である。
【0010】
この脳の認識の手法においては、このように遠い過去の記憶まで参照して認識するものだけでなく、もっと短時間での過去も多大な影響を与えていると考えられる。そして聴覚に関する情報である音についても、より短時間の直前の音と照らし合わせて認識していると考えられる。
【0011】
このことから、ターケンス・プロットで「現時点での波形を所定のプロットスケール幅によって選択している作業」は、脳で行われている「現時点の情報を認識するときに同時に過去の情報も参考にしている」という作業ときわめて類似したものであるといえる。このため、音を表わす波形からターケンス・プロットによってアトラクタを描画する作業は、脳にとっては、その波形を認識するに必要な「音の印象」を抽出する作業に他ならない。すなわち、ターケンス・プロットを用いで表示したアトラクタは、その音の「音の印象」という特徴の部分が視覚的に表現されているといえる。
【0012】
また、近年では波形に含まれえるアトラクタの形状が、いくつかのパターンに分別されることがわかってきている。例えば「リミット」、「ストレンジ」、「トーラス」などのアトラクタが良く知られているが、特に「ストレンジ」アトラクタはカオス状態の実態であるということがわかっている。
【0013】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、音の特徴をアトラクタの特徴として抽出し、このアトラクタの特徴を備えた各種音色の波形をユーザの任意の操作によって新たに作成することができる波形発生装置および波形発生処理プログラムを提供することを目的としている。
【0014】
上記目的を達成するため、まず、入力された時間軸及び波高値軸を有する2次元相空間上の原波形データに対して、ターケンスの埋め込み定理によるn(n>2)次元相空間への埋め込みを、予め定められたプロットスケール値t及びリサンプリング時間Δtから成るプロット条件に基づいてターケンス・プロット処理を実行する。そして前記n次元相空間上にアトラクタを生成、表示する。さらに表示されたアトラクタを表わす波形の形状をユーザ操作に応じて変形する。このようにして変形された変形アトラクタに対して、前記ターケンス・プロット処理の逆変換処理を行うことにより、2次元相空間上の波形データに戻す作業を行う。
【0015】〜【0018】(本題に関係ないので引用を省略する。)

【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、音の特徴をアトラクタの特徴として抽出し、このアトラクタの特徴を継承しながらも、変更された各種波形をユーザの任意の操作によって新たに作成することができる。
↑【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
A.構成
図1は、本発明の実施の一形態による波形発生装置100の構成を示すブロック図である。この図に示す波形発生装置100は、入力部10、操作部20、表示部30、鍵盤40、CPU50、ROM60、RAM70およびサウンドシステム80から構成される。入力部10は、マイクロホンおよびA/D変換器を備え、CPU50の制御の下に、外部から入力される波形をサンプリングしてなる原波形データを出力する。入力部10から出力される原波形データはRAM70の原波形データエリアに格納される。
【0021】
操作部20は、操作パネルに配設される各種スイッチを備え、ユーザのスイッチ操作に対応したスイッチイベントを発生する。操作部20から出力されるスイッチイベントは後述するCPU50に取り込まれる。操作部20に配設される主要なスイッチとしては、装置電源をオンオフする電源スイッチの他、動作モードを選択するモードスイッチや発生楽音の音色を選択する音色選択スイッチなどがある。また、操作部20は、ポインティングデバイスとして、周知のクリック操作およびドラッグ操作が行われるマウスを備える。
【0022】
表示部30は、LCDパネルおよび駆動ドライバから構成され、後述するCPU50から供給される表示制御信号に応じて、装置各部の設定状態や動作状態を表示する他、後述するアトラクタの軌道を表示する。鍵盤40は、押離鍵操作に応じたキーオン/キーオフイベントおよびノート番号、ベロシティ等からなる演奏情報を発生する。
【0023】
CPU50は、操作部20から供給されるスイッチイベントに応じて装置各部を制御する。具体的には、操作部20に配設されるモードスイッチの操作により選択される動作モードに従った処理動作を実行する。設定モードに遷移したCPU50は、ユーザ操作に応じて入力される設定パラメータに従って各動作モード下における装置各部の動作態様を指定する。入力モードに遷移したCPU50は、入力部10に波形サンプリングの開始を指示する一方、この指示に応じて入力部10から取り込まれた原波形データをRAM70の原波形データエリアに保存する。
【0024】
また、波形発生モードに遷移したCPU50は、波形発生処理(後述する)を実行し、RAM70の原波形データエリアに格納した原波形データからアトラクタを抽出、変更し、さらにこのアトラクタから新たな波形データを再生成してRAM70の再生成波形データエリアに保存する。さらに、演奏モードに遷移したCPU50は、鍵盤40から供給される演奏情報に応じた楽音データを発生する演奏処理を実行する。
【0025】
ROM60には、各種制御プログラムが記憶される。ここで言う各種プログラムとは、後述するメインルーチンおよび波形発生処理を含む。波形発生処理は、後述するターケンス・プロット表示処理、アトラクタ変更処理および波形再生成処理を含む。またすでに発見されているリミットサイクルやストレンジ、トーラス、ローレンツなどの有名なアトラクタの特徴を有するアトラクタデータを格納する基本アトラクタデータエリアに基本アトラクタデータが格納されている。
【0026】
RAM70は、各種レジスタ・フラグデータを一時記憶するワークエリアと、入力部10から出力される原波形データを格納する原波形データエリアと、ターケンス・プロット表示処理(後述する)により原波形データをターケンス・プロットして得られるアトラクタデータを格納するアトラクタデータエリアと、アトラクタ変更処理(後述する)により軌道変更された変形アトラクタデータを格納する変形アトラクタデータエリアと、変形アトラクタデータに基づき再生成される再生成波形データを格納する再生成波形データエリアとを備える。
【0027】
図2は、RAM70における原波形データエリア内の原波形を示す図であり、各波高値W(n)(n=0〜N)が記憶されるようになっている。図3は、RAM70のアトラクタデータエリアにおけるアトラクタデータ(後述)の内容を示す図であり、n=0〜Nまでの表示部30の画面上の座標が書き込まれる。各座標は、x成分、y成分、z成分から成る。
【0028】
また図1におけるサウンドシステム80は、演奏モード下のCPU50が発生する楽音データをD/A変換してなる楽音信号から不要ノイズを除去する等のフィルタリングを施した後に増幅してスピーカから放音する。
【0029】
B.動作
次に、上記構成による波形発生装置100の動作について説明する。以下では、図4を参照して波形発生装置100のCPU50が実行する「メインルーチン」の動作を説明した後、図5〜図16を参照してメインルーチンからコールされる「波形発生処理」の動作を説明する。
【0030】
(1)メインルーチンの動作
図4は、CPU50が実行するメインルーチンの動作を示すフローチャートである。装置電源が投入されると、CPU50は図4に図示するメインルーチンのステップSA1に処理を進め、RAM70に設けられる各データエリアを初期化するイニシャライズを実行する。続いて、ステップSA2では、ユーザのモードスイッチ操作に応じて動作モードを設定する。そして、ステップSA3〜SA6では、上記ステップSA2において設定された動作モード(設定モード、入力モード、波形発生モードおよび演奏モード)を判別する。以下、設定モード、入力モード、波形発生モードおよび演奏モードに設定された場合の動作について述べる。
【0031】
<設定モードに設定された場合>
設定モードに設定されると、ステップSA3の判断結果が「YES」になり、ステップSA7に進み、設定処理を実行する。設定処理では、ユーザ操作に応じて入力される設定パラメータに従って各動作モード下における装置各部の動作態様を指定する。例えば、後述する入力モードにおける波形サンプリング期間長やサンプリング周波数を設定したり、演奏モードにおける音色波形選択や効果付与するエフェクトの種類などを設定する。
【0032】
そして、ステップSA8では、設定モード終了を指示する操作イベントの有無を判断する。終了指示する操作イベントが無ければ、判断結果は「NO」となり、ステップSA7の設定処理を継続するが、終了指示する操作イベントが発生すると、判断結果が「YES」になり、上述したステップSA2の動作モード設定状態に復帰する。
【0033】
<入力モードに設定された場合>
入力モードに設定されると、ステップSA4の判断結果が「YES」になり、ステップSA9に進み、波形入力処理を実行する。波形入力処理では、本処理に必要なイニシャライズ処理を行った後、入力部10に波形サンプリングの開始を指示し、この指示に応じて入力部10から取り込まれる原波形データを、上述した設定モードにおいて設定される波形入力態様に従って取り込み、取り込んだ原波形データの各波高値W(n)(n=0〜N)をRAM70の原波形データエリアに順次ストアする。
【0034】
そして、ステップSA10では、入力モード終了を指示する操作イベントの有無を判断する。終了指示する操作イベントが無ければ、判断結果は「NO」となり、ステップSA9の波形入力処理を継続するが、終了指示する操作イベントが発生すると、判断結果が「YES」になり、上述したステップSA2の動作モード設定状態に復帰する。
【0035】
<波形発生モードに設定された場合>
波形発生モードに設定されると、ステップSA5の判断結果が「YES」になり、ステップSA11に進み、波形発生処理を実行する。波形発生処理では、後述するように、RAM70の原波形データエリアに格納した原波形データから抽出されたアトラクタの特長を備えた再生成波形データを再生成してRAM70の再生成波形データエリアに保存する。
【0036】
そして、ステップSA12では、波形発生モード終了を指示する操作イベントの有無を判断する。終了指示する操作イベントが無ければ、判断結果は「NO」となり、ステップSA11の波形入力処理を継続するが、終了指示する操作イベントが発生すると、判断結果が「YES」になり、上述したステップSA2の動作モード設定状態に復帰する。
【0037】
<演奏モードに設定された場合>
演奏モードに設定されると、ステップSA6の判断結果が「YES」になり、ステップSA13に進み、演奏処理を実行する。演奏処理では、鍵盤40から供給される演奏情報に応じた楽音データを発生する演奏処理を実行する。すなわち、RAM70の再生成波形データエリアに格納される、アトラクタの特長を備えた各種音色の再生成波形データの内から、上述した設定モードにおいて音色選択された再生成波形データを、鍵盤40で押鍵された鍵の音高に応じた読み出し速度で読み出してなる楽音データを発音(再生)したり、複音同時発音(再生)中の楽音データの内、鍵盤40で離鍵された鍵の音高に対応した楽音データを消音させる。
【0038】
そして、ステップSA14では、演奏モード終了を指示する操作イベントの有無を判断する。終了指示する操作イベントが無ければ、判断結果は「NO」となり、ステップSA13の演奏処理を継続するが、終了指示する操作イベントが発生すると、判断結果が「YES」になり、上述したステップSA2の動作モード設定状態に復帰する。
【0039】
(2)波形発生処理の動作
次に、図5〜図16を参照して波形発生処理の動作を説明する。図5は、CPU50が実行する波形発生処理の動作を示すフローチャートである。上述したメインルーチンのステップSA11(図4参照)を介して実行される波形発生処理は、ターケンス・プロット表示処理(ステップSB1)、アトラクタ変更処理(ステップSB2)、波形再生成処理(ステップSB3)から構成される。以下、これら各処理の動作を説明する。
【0040】
a.ターケンス・プロット表示処理の動作
波形発生処理のステップSB1(図5参照)を介して本処理が実行されると、CPU50は図6に図示するターケンス・プロット表示処理のステップSC1に処理を進め、初期設定を行う。初期設定では、本処理に必要なイニシャライズ処理の他、後述のステップSC2において実行するターケンス・プロット処理に必要なプロット条件(波形区間長Stime、プロットスケール幅tおよびリサンプリング周期Δt)をユーザ操作に応じて設定する。
【0041】
ステップSC2では、上記ステップSC1において初期設定されたプロット条件(波形区間長Stime、プロットスケール幅tおよびリサンプリング周期Δt)に基づき、RAM70の原波形データエリアに格納される原波形データにターケンス・プロット処理を施す。ターケンス・プロット処理は、原波形データからアトラクタを生成するものであり、その動作について図7を参照して説明する。
【0042】
図7は、ターケンス・プロット処理の概要を説明するための図である。ターケンス・プロットでは、RAM70の原波形データエリアに格納される原波形データをリサンプリングするプロットスケールが用いられる。図7に図示する一例は、2次元の原波形データから3次元のアトラクタを生成する場合のプロットスケールを例示している。プロットスケールは、プロットスケール幅tを隔てた3点(x成分、y成分およびz成分)における原波形データの波形値T(x,y,z)を指定する。
【0043】
原波形データの波形値T(x,y,z)を指定するプロットスケールは、リサンプリング周期Δt毎に時系列順に移動する。リサンプリング周期Δtは、原波形データのサンプリング周期以上の時間幅を有する。リサンプリング周期Δt毎に、時系列順に移動するプロットスケールによって、波形値T1(x,y,z)〜波形値Tn(x,y,z)が得られる。波形値T1(x,y,z)〜波形値Tn(x,y,z)の数は、上記ステップSC1で設定される波形区間長Stimeで決まる。
【0044】
図8はターケンス・プロット処理を示すフローチャートである。まず、変数nを0にリセットし(ステップSF1)、次にステップSF2において、プロットを行うためにプロットスケール幅tを隔てた3点が原波形の時間軸上での位置関係を設定する。すなわち最初の点であるt0が0と決まると、tの幅だけ時間を隔てた点t1、そしてさらにtの幅だけ時間を隔てたt2が設定されるようになっている。
【0045】
次に、CPU50は、RAM70のアトラクタデータエリア内のxnに、時間t0における位置での波高値W(t0)を格納する(ステップSF3)。そしてynには、時間t1における波高値W(t1)を格納する(ステップSF4)。さらにzn2には時間t2における波高値W(t2)を格納する(ステップSF5)。この処理によって、表示部30の画面上に表示されるアトラクタの最初の3次元座標T1(図7参照)が決定する。その後、nをインクリメントし(ステップSF6)、時間軸上の各プロットスケール位置t0、t1、t2をΔtだけシフトさせる(ステップSF7)。
【0046】
続いて、時間t2がStimeを越えたか否か判断し(ステップSF8)し、超えていなければステップSF3の処理に戻って再びx成分、y成分、z成分の値を順次読み出し、RAM70内のアトラクタデータエリアへの書き込みを行う。この動作は、時間t2がStimeを越えるまで繰り返す。これにより、波形値T1(x,y,z)〜波形値Tn(x,y,z)が全て格納され、ターケンス・プロット処理の動作を終了する。
【0047】
次に、図6に図示するステップSC3では、得られた波形値T1(x,y,z)〜波形値Tn(x,y,z)についてのアトラクタが、最もその特徴を表現できるように、相関抽出処理が行われる。図9は相関抽出処理のフローチャートである。ここでは、すでに有名となっているアトラクタの特徴である「リミットサイクル、ストレンジ、トーラス」などの基本的な複数種のアトラクタ(以後基本アトラクタと称する)が予めROM60の基本アトラクタデータエリアに記録されており(図示せず)、この基本アトラクタと前述のターケンス・プロット処理により得られたアトラクタとの3次元相空間内での相関関係を調べて、もっとも高い相関性が得られる最適プロット条件を検出するための処理を行う。
【0048】
まず最初に、記録されている複数の基本アトラクタの中からひとつの基本アトラクタデータをROM60から呼び出す(ステップSH1)。次に、図8のターケンス・プロット処理により得られたアトラクタデータを呼び出す(ステップSH2)。そしてこれら呼び出された二つのアトラクタの形状の比較を行う(ステップSH3)。
【0049】
この図形の比較は、指紋認証を行うように二つの図形の位置やスケール、角度などを調整して多面的に比較することが好ましいが、特にこれに限定されるものでなく、別の3次元相空間における図形の比較の方式を用いてもよい。
【0050】
次に、この二つの図形の比較によってその相関性を定量的に示すべく相関値を決定する(ステップSH4)。例えばこの方法は、画像処理で行われるピクセルマッチングなどの方法がある。そして算出された相関値をRAMのワークエリアの相関値レジスタの値と比較し、大きい場合は算出された相関値と対応するプロット条件をストアする(ステップSH5)。続いて、記憶されている基本アトラクタを全部参照し終えたか否か判断し(ステップSH6)、参照し終えていないなら、別の基本アトラクタを順次指定してステップSH2〜SH6の処理を繰り返す。
【0051】
全ての基本アトラクタとの参照が終われば、ステップSH8へと処理を進める。すなわち、相関値レジスタは、この時点でもっとも基本アトラクタのどれかに最も高い相関性をもった相関値とその時に使用されたプロット条件が記録される。そして、ステップSH8では次のターケンス・プロットを行う準備を行うべく、RAM70内のアトラクタデータエリア内のデータT1〜Tnのデータを消去する。
【0052】
ここで、ROM60に記録されている基本アトラクタデータを記憶する基本アトラクタデータエリアであるが、図3に示すアトラクタデータエリアと同じ構造をとっている。この基本アトラクタデータエリアには、アトラクタの中でも有名な形状のアトラクタデータが記憶されている。例えばストレンジアトラクタを示す場合ではカオス状態である可能性が高いことがわかっており、このカオス状態は人間を含む自然界に含まれる状態として非常に有名である。
【0053】
このように、事前にアトラクタの特徴と音の実際の関係がわかっているのであれば、ROM60に予め必要な基本アトラクタとして記録しておくことができる。これにより必要なアトラクタが効率的に表示させることが可能となる。そして、自ら自分が発見した無名のアトラクタが格別の効果があると判明した場合は、そのアトラクタを基本アトラクタとすることにより、基本アトラクタを増やしていくことも考えられる。さらには、ユーザがアトラクタの表示される相空間上に自由に波形を描画できる機能を付加することにより、描画した波形を基本アトラクタとして利用することができるようにしてもよい。
【0054】
次に、図6において、ステップSC4では、全てのプロット条件の処理を実行したか否かを判断する。まだ全てのプロット条件についてターケンス・プロットと相関抽出処理を行っていない場合は、判断結果が「NO」になり、ステップSC5に進み、プロット条件更新を実行した後、再び上記ステップSC2〜SC3を繰り返す。
【0055】
プロット条件更新は波形区間長Stimeの範囲において、複数のプロットスケール幅tと複数のリサンプリング周期Δtによって作り出される組み合わせが新しいプロット条件となるように更新するものである。この処理によって、多数のプロット条件を用いターケンス・プロットを自動で効率よく行えるようになる。
【0056】
尚、このプロット条件の組み合わせは、tおよびΔtがどれくらいのステップ量の細かさで組み合わせを作るのかによって増減するが、そのステップ量はCPUの処理能力によってユーザが自由に設定できるようにしてよい。また最初から実験値によって得られた適当な値を設定しておくことも可能である。
【0057】
さらに本実施形態においては、波形区間長Stimeについては固定しているが、これを可変とすることにより、プロット条件を増やしてもよい。また、プロットスケールtの各成分毎の間隔(x成分からyまでのtとyからzまでのt)を別々に変更することによりプロット条件を増加させて比較処理の回数を増やし、相関値算出精度をアップすることも可能である。
【0058】
本実施形態においては、ターケンス・プロット処理におけるプロット条件を自動的に種々変更して最適なプロット条件とアトラクタ抽出ができるようになっている。このため、操作する人の手間がかからず、簡単に最適なアトラクタの表示が可能となる。もちろん、本実施形態の如く自動的に最適なアトラクタを抽出するのではなく、ユーザが任意の値を設定しながら、最適と思われるアトラクタを抽出するようにしてもよい。
【0059】
さらに本実施形態では、基本アトラクタと原波形のアトラクタの比較による相関値をみてアトラクタの特徴を抽出しているが、この方法の限りではない。またカオス性を見出すために、現在様々な方法が提案されているが、リアプノフ指数を計算する機能を別途追加してリアプノフ指数が正となれば、カオスの傾向を表すために波形の色を変更したり、フーリエ変換サロゲート法を実行する機能を追加して、今扱っている波形がカオスであることを別に設けられた表示部などに表示させるようにしてもよい。これにより、その波形の持つ特徴をさらに詳しくユーザに示すことができ、さらに効率的な使い勝手のよい波形発生装置の提供が可能となる。
【0060】
再び図6に戻り、全てのプロット条件でターケンス・プロットとその相関抽出が終わると、ステップSC4の判断結果が「YES」となる。そして、ステップSC6に進み、図9のステップSH5においてレジスタに記憶されたプロット条件を、最大相関値が得られる最適プロット条件であると決定する。
【0061】
次に、ステップSC7において、この決定された最適プロット条件で再び原波形に対してターケンス・プロット処理を実行してアトラクタを求める。そしてこの求められたアトラクタを表示部に表示するとともに、次のステップSC8においてアトラクタデータエリアに保存する。
【0062】
この結果、最適なプロット条件で求められたアトラクタの各座標値である波形値T1(x,y,z)〜波形値Tn(x,y,z)が表示部30上の3次元相空間にプロットされ、これにより最も基本アトラクタと相関性のあるプロット条件でのアトラクタが表示されることになる。ここにおいて、表示部30にプロット条件と、相関値が高かった基本波形の名称などの情報も同時に表示するようにして、このアトラクタがどのような傾向であるのかをユーザに知らせるようにしてもよい。こうすることにより、より使い勝手がよくなり、ユーザは計画性のある編集を行うことが可能になる。
【0063】
図10は、アトラクタの一例を表示した図であり、原波形データのアトラクタが軌道のように表示部30に表示される。このアトラクタを表示する際、軌跡をはっきりと見せるために、プロットされた点と次の点とをスプライン処理などを行って薄い色の線としてわかりやすく表示するようにしてもよい。
【0064】
b.アトラクタ変更処理の動作
次に、図11〜図14を参照してアトラクタ変更処理の動作を説明する。上述したターケンス・プロット表示処理により2次元の原波形データから3次元のアトラクタが生成され、図10に図示する一例のように、原波形データのアトラクタを描画し終えると、CPU50は図11に図示するアトラクタ変更処理のステップSD1に処理を進める。ステップSD1では、図12に図示するように、アトラクタ軌道上にマウスカーソルをポインティングした状態でマウスの左ボタンをクリックすると、このマウスカーソルと交接するアトラクタ軌道上の複数のデータ変更点を指定する。
【0065】
次いで、ステップSD2では、上記ステップSD1で指定された複数のデータ変更点を起点としてアトラクタの軌道を変更させるマウス操作量(x軸成分変位量、y軸成分変位量およびz軸成分変位量)を検出する。すなわち、図13に図示するように、マウスの左ボタンをクリック操作して複数のデータ変更点を指定した状態から当該マウスを前後にドラッグ操作した場合には、そのドラッグ操作された移動量がマウスカーソルのy軸成分変位量として検出される。また、マウスを左右にドラッグ操作した場合には、そのドラッグ操作された移動量がマウスカーソルのx軸成分変位量として検出される。さらに、マウスのホイール回動操作量がマウスカーソルのz軸成分変位量として検出される。
【0066】
続いて、ステップSD3では、アトラクタ変更描画処理を実行する。アトラクタ変更描画処理では、上記ステップSD1で指定された複数のデータ変更点を、上記ステップSD2において検出したマウス操作量(x軸成分変位量、y軸成分変位量およびz軸成分変位量)に応じて3次元直交座標上で移動させると共に、この移動された複数のデータ変更点を中心としたデータ補間エリア(図12参照)に含まれるアトラクタ軌道を変形させる。
【0067】
アトラクタ軌道を変形させるには、移動させた複数のデータ変更点の新たな座標位置に対して、RAM70のアトラクタデータエリアに保存したアトラクタデータ(波形値T1(x,y,z)〜波形値Tn(x,y,z))の内、データ補間エリア(図12参照)に含まれるアトラクタデータを、例えばスプライン関数などによる内挿補間演算を施して新たな軌道位置を求めればよい。
【0068】
尚、ターケンス・プロットの方法で、リサンプリングを続けた結果、その時間の累積による大きさがプロットスケール幅tの大きさを越える場合があり、その場合は今までyとして扱っていた数値が再びxとして扱われるようになり、zとして扱っていたデータが再びyとして扱われるようになる。すなわちこのようなプロット条件で作成されたアトラクタ上でのデータを変更すれば、それにともなって変更されるべき他の時間での波形値が存在することになる。この場合は、必要に応じてデータが変更されたときに、同時に原波形との整合性をもたせるためにアトラクタ上の関係する軌道を同時に修正するなどの自動処理を行うとよい。
【0069】
これにより、図10に図示したアトラクタ軌道は、例えば図14に図示するように、変更されたアトラクタ軌道が描画されて表示部30に表示される。そして、ステップSD4では、変更されたアトラクタ軌道を表す変更アトラクタデータ、すなわち3次元直交座標上の各波形値をRAM70の変形アトラクタデータエリアに保存して本処理を終える。
【0070】
c.波形再生成処理の動作
次に、図15を参照して波形再生成処理の動作を説明する。この波形再生成処理は、今まで行ってきたターケンス・プロットとは逆の処理を行わせて、3次元相空間のアトラクタから2次元の波形を作り出すものである。
【0071】
まず上述したアトラクタ変更処理により原波形データから得たアトラクタの軌道を所望の形状に変形させ終えると、CPU50は図5に図示するステップSB3を介して波形再生成処理を実行する。波形再生成処理が実行されると、CPU50は図15のステップSI1に処理を進め、変数nに対して前回ターケンス・プロットした最後の値であるNを格納する。
【0072】
さらに、ステップSI2では再生される波形の終端の時間軸上の位置をt2とし、ここから時間軸上をプロットスケール幅tだけ遡った時間t1とし、さらにtだけ時間軸上を遡った時間t0と決定する。すなわちここでは時間軸上を逆方向にプロットスケールを動かすための準備作業を行っている。
【0073】
そして、ステップSI3では、変更アトラクタデータのn番目の座標であるzn,yn,xnを読み出す。この読み出されたzn,yn,xn夫々を、2次元波形の時間軸上の位置t2、t1、t0での波高値W(t2)、W(t1)、W(t0)として、RAM70に確保した再生成波形データエリアに書き込んでいく(ステップSI4〜ステップSI6)。この再生波形エリアは図2に示した原波形エリアと基本的に同じような構造をしている。次にステップSI7ではnをデクリメントしてt2、t1、t0をΔtだけ時間を遡るように移動させる。続くステップSI8ではnが0より小さいかどうか判断し、小さくないならステップSI3までもどり、ステップSI3〜SI7までの処理を繰り返し行う。そしてnが0より小さくなると、ステップSI8の判断はYESとなりこの波形再生処理を終了する。この波形生成処理によって、変更アトラクタデータは2次元の再生成波形データに変換されて再生成波形データエリア内に記憶される。
【0074】
図16は、この処理によって進められる波形の2次元への並び替え処理を図示したものである。プロットスケールはこのようにΔtだけ順次時間を遡りながら2次元波形を完成させる。
【0075】
このように、波形再生成処理では、上述のアトラクタ変更処理にて変形されたアトラクタについて、前述したステップSC2のターケンス・プロット処理(図6参照)とは逆の処理操作を施して3次元の変形アトラクタデータから2次元の再生成波形データを生成する。これにより、音として聞くことが可能なサウンドを生成することができる。
【0076】
以上説明したように、本実施の形態では、外部から入力される波形をサンプリングして得た原波形データにターケンス・プロット処理を実行し、当該原波形データのアトラクタを表示し、この表示されたアトラクタの軌道をユーザ操作に応じて変更して変形アトラクタを作成し、さらにターケンス・プロットの逆の処理を行うことで再生成波形データを生成している。したがって、原波形データのアトラクタの特徴を継承した各種音色の波形を発生することが可能となる。
【0077】
なお、上述した実施形態では、外部から入力される波形原波形データとして用いているが、ロジスティック関数などから得られる離散的な数列から得た波形を発生させて用いる態様としても構わない。また、原波形を用いずに、n次元のアトラクタが描かれる相空間に対して、アトラクタをマウスで直接描画することで、アトラクタデータを創りだし全く新しい波形を生成することも可能である。
【0078】
さらに、本実施の形態では、2次元の原波形データから3次元のアトラクタを作成する一例について言及したが、本発明の要旨はこれに限定されず、2次元の原波形データから4次元以上のアトラクタを生成する態様であっても勿論適用可能である。

3 具体的な使用方法
まず、高音質なピアノの音からアトラクタを生成する。そのアトラクタは、ピアノの印象を表すものであり、この形の一部分をマウスで変形させた後、ターケンス・プロットの逆変換を行う。これによって高音質なピアノの音の印象を継承した音が生成される訳である。

また、予め標準音質と高音質のアトラクタを比較しておき、高音質が標準音質と比べてどの部分のアトラクタの形状が異なるかを確認しておき、その部分の形状を強調することで、その音の印象をより強く増幅することができる。すなわち、音が人間に与える作用効果を増幅することができるのである。

図1

図2

図3

図4

図5

図6

図7

図8

図9

図10

図11

図12

図13

図14

図15

図16

■音の研究活動(進捗報告)
http://d.hatena.ne.jp/TatsuyaDejima/20130228/1362055452














































































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